今年のノーベル経済学賞をオリバー・ハート氏が受賞したその理由が契約理論というものだが、これについて一年以上前に自著で扱っていたと我らが池田信夫御大が自賛していたのが本書である。おちょくるようなことを書いておいて何だが、実は以前から読みたいと思っていたので、これを機会に手に取ってみた。
資本主義という言葉を、我々は案外何も知らずに使用している。驚いたことに、経済学者ですら長くその実態を掴めていなかった。が、様々な経済理論の挑戦によって、その正体が近年次第に明らかにされつつあるという。本書はそれを、主にマルクスを再評価することで解き明かそうというものだ。マルクスを扱っているが赤い本ではない。
主要な論点は第一章にまとまっており、第二章以降はそれを深める各論のような構成になっている。従って、極端なことを言えば第一章だけ読めば事足りる本である。しかし第一章を理解するには最低限近代史を知っている必要があるし、もっと言えば近代史だけ知っていてもなかなか理解が難しい。そこで次章以降の登場となる。
第二章以降では近代史を概観し、ある地域になぜ資本主義が生まれ、あるいは根付き、あるいは誕生しなかったかなどを通して、資本主義の本質を探っていく。読んでいると同じ山に違うルートで何度も登っているような感じもするが、景色がまったく違うのでそう飽きることはなく、むしろ楽しいくらいである。序章で著者は第二章以降を先に読んだ方が第一章を理解しやすいだろうと述べており、人によってはそのアドバイスに従った方が良いかもしれない。白林檎的には章立て通りに読み進め、読み終わったらもう一度第一章を読むというのがお勧めだ。
経済理論というとよくわからない数字で大衆を煙に巻くようなイメージがあるが、本書は喩え話を織り交ぜた解説がメインとなっていて読みやすい。数式やグラフもときどき出てくるものの、そういったものはすっ飛ばしてしまってもまったく困らなかった。鼻につくような主張も無く、読み物として純粋に面白い。
ただ、第二章以降は著者のブログの記事を利用している部分が多いのか、ときどき論旨や解釈に齟齬のある部分が出てきて軽く混乱することがあった。その辺はもうちょっと丁寧に本作りをしても良かったのではないかと少々残念に思う。そういう箇所はテキトーにツッコミを入れつつ気にせずに読み進めるスキルが求められるので、神経質な人は注意が必要だ。その辺を差し引いても、世界の秘密の一端を垣間見せてくれる本書には、一読の価値がある。