地蔵峠を越えると、少し開けた町に出る。暗くてどのくらいの規模の町なのかわからないが、とにかく町である。店もガソリンスタンドも閉まっているからどちらかというと田舎に属するのだろうが、峠を二つもぶっ続けで走ってきた後の目には、とても大きな街に映る。
この辺りからいい加減疲れてきて、ただの地図として使っていたカーナビに案内をしてもらうことにした。「5km以上道なりです」という聞きなれたセリフが、いささか飽きれたような声で響く。青い筋道の付けられた画面上には、152号線以外の道路が映っていない。でもまあ、これだけ走ったんだから、もう浜松に着いても良い頃だ。このまま家や店が増えてきて、次第に風景が賑やかになるんだろう。
案内表示に「浜松」の文字が出てきた。喜び勇んでハンドルを左に切る。と、にわかにカーナビがルート探索を始めた。少ししてから、戻れと言い出した。しかし地図の上では道は続いているし、目の前にももちろん道路が広がっている。このカーナビ、ときどき妙な道案内をしてくれるので、ぼくと相方にはときどき信用がない。このときも、少なくとも地図上はまっすぐで到着するはずだったから、ぼくはカーナビよりも地図を信じることにした。
そして、割とすぐに後悔した。
街中を通っていたはずの道路が、唐突に山道になったからだ。
ただ、暗いことを除けば、今度の道は先のふたつの峠よりは随分とマシではあった。その気になれば引き返せそうなくらいの道幅はあったし、何より結構な山奥まで人家や作業場があった。相方によれば、林業のために開けているのではないかとのこと。果たして後で調べてみたら、この道は正確には国道152号線ではなく、林道なのであった。青崩峠のところで国道152号線はしばし途切れ、林道を迂回して越えてから、また152号線に戻るというルートのようだ。
この峠ではあまり苦労した覚えがないが、疲労感とガソリンが残り少ないことからくる緊張感は如何ともしがたいものがあった。だから、静岡県に入ったことをカーナビが告げたとき、それはそれは嬉しかった。しかし水窪町から浜松まではまだ70km近くある。途中、作りかけの高速道路を少しだけ通った後は、また山道が続いている。とはいえ、ここまで来ると流石に驚くような道はなく、奈良の山道とそう変わらない。
途中、道の駅で少しだけ休憩して、浜松に向けてひた走る。すでに日付は替わっており、ウナギどころではなかったが、それでもガソリンはとにかく可及的速やかに入れてしまわなければならない。水窪を抜け、天竜市に入っても、深夜営業しているガソリンスタンドは存在しない。やはりこれは浜松まで行ってしまわねば話にならないようだ。
気がつくと、国道152号線は随分広い道路になっている。何だか冗談みたいだと思っているうちに浜北を抜け、ようやく浜松に到着した。灯の入ったガソリンスタンドを見付け、そこはセルフであったが──ぼくは普段、セルフのスタンドは何があっても、誰に何と諭されようと利用しない──背に腹は代えられない。藁にもすがる思いで飛び込み、給油した。それから吉野家で遅い夕食を済ませ、ようやく一息つくことが出来たのであった。
このような訳で国道152号線の恐怖レポート(そんなテーマだったろうか)は終わるが、この話は作り話ではなく、それどころか誇張だって少しも含まれてはいない。ゆめゆめ疑うことなかれ。南アルプスの裏から浜松へ抜けるときは152号線だけはやめた方が良い。153号線は大分マシな幹線道路らしいので、こちらを使うべきであろう。つーか、ぼくも次からは絶対そうする所存である。
国道152号線についてより詳しく知りたい方には、『国道をゆく』というページが大変面白く、かつ参考になるであろう。